2012年8月21日火曜日

カルト怪談実話ヴィンテージ・コレクション① 後藤久美子著『ゴクミ語録』


というわけで、唐突に始まったこのシリーズ。こんなところにも怪談実話が!という秘仏を文学史の奥処からささやかに発掘、紹介してゆきたいと思っております。シリーズにするほどストックあるかな。ないかもな。

さて、記念すべき第一弾はこれです。後藤久美子著『ゴクミ語録』




プロデュースが坂本龍一、写真が篠山紀信というバブリー感のただよう一冊で、たしか相当売れたはず。見どころはのりピー語ならぬ、ゴクミ語の炸裂ぶり。これがパンキッシュなんですよ。冒頭をちょっとだけ引用してみましょうか。


ムカムカムカムカムカ。ム・カ・ツ・ク!トロイヤツ見ると殴りたくなっちゃう。私。ノロマな大人が大キライ!〝大人〟も〝ノロマ〟もそれぞれにキライなのに、それが合体ロボしてるなんて耐えられない。あー、アッタマくる、トロイヤツ。


舞城王太郎か、というドライブ感で若干13歳のゴクミ先生が社会を、大人を切って切って切りまくる。そんな一冊なわけなんですが、この本がすごいのは、怒れる乙女モードのまま唐突に怪談実話に突入するところなんです。
たとえば第5章「ヘン」より。


へん!なんだかとってもへん!たとえば、カナシバリ!恐いテレビ観た夜とか、もうダメ。観てる時は楽しいけど、その夜。ホントに体がピクとも動かなくなっちゃうんだもん。グググッて上からオサえつけられてる。でね、下手に動こうとすると、その私のことオサえてる霊がね、『ホホホ、こいつはもだえて苦しんでいるな、よしよし』とか言っちゃってね、いい気になってかえってずっとやられるとヤだからね、もう無抵抗。


という具合でかなり怖い。しかも片仮名の使い方が、坂口安吾みたいで恰好いい。カナシバリ。
さらにこんな体験談もあります。


で、鏡台のとこ、三面鏡が『ボォッ』って光ってんの。よく見ると、なんと鏡に仏様に飾るのあるじゃない、位牌! それに骨を入れるヤツ、そう骨壺! 位牌と骨壺が映ってたの。コワイよー! 三面鏡の真ん中にしか映ってなくて、両側の鏡には見えないの。その廻りが『パァパァパァパァ』って光ったの。


鏡台に位牌と骨壺が映る!しかも「パァパァパァパァ」と光るんです!これは怪談実話好きを唸らせる好展開ですよ。考えて作れる話じゃない。
ほかにも後藤家の離れにまつわる因縁話なんかも語られてるわけですが、ゴクミがクールなのは心霊ものだけじゃなく、グロ話までいけること。

食っちゃったとかよくあるよね。腕とかを切ってさ、タッパーに入れてさ、そんでさあ冷蔵庫に入れといてさ、そいでこう、なんていうの……バーベキュー! バーベキューにしてガーデンパーティしてたって。いいね、ニギヤカで、なんて何を言ってんだ、ハハハ。人を食ったような話。

食っちゃった、というのは当然人間でございます。それを「ハハハ。人を食ったような話」と強引に落とすんだから、暗黒笑点というか、猟奇と哄笑というか。ほかにも、膝を擦りむいて「もうウミウミ! ♪ウーミーはヒドイなーでっかいなー」と地獄節にしてみたり、ドラキュラがいるからルーマニアに行ってみたいとgothの片鱗を覗かせてみたり。


不思議体験を売りにするアイドルというのは今も昔もおりますが、ここまで突きぬけた味わいの怪談実話を、ここまでぶっ飛んだ文体で描いたアイドルは、おそらくゴクミ以外にはおりますまい。我ながらなんで買ったのか全然思い出せないんですが(別にゴクミファンだった時代はない)、ハードコア系怪談実話の至宝として、この先も長く読み継がれてほしい作品です。
まさかの『ゴクミ語録2』、出ないかなあ……。メディアファクトリーさんか竹書房さん、いかがですか?



なお、言うまでもないでしょうが、この企画。
元ネタは東雅夫氏の『昭和の怪談実話ヴィンテージ・コレクション』(メディアファクトリー)であります。カストリ雑誌などに掲載された幻の怪談実話を発掘したこのアンソロジー、今日の「怪談実話」のイメージを覆してくれる怪作揃いで、たいへん刺激的でした。〈幽books〉はこうした温故知新的な企画もやってくれるので、とても素晴らしい。



装幀もカックイイ!



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