2017年9月1日金曜日

【怪老人日乗】 九月某日


片手袋、すなわち片方だけ落ちている手袋を研究している人がいるという事実は、サンキュータツオ氏の著書『もっとヘンな論文』で知ったのだった。
言われてみるとたしかに、路上にはよく片方だけの手袋が落ちている。
今日も落ちていた。


アスファルト手袋くずれ落ちにけり (曾良)





扠。
今日は仕事でSF(すこしふしぎ)の世界に出かけてきたのである。
ピー助がいるなあ。
噫、その奥にはバウワンコ像がいるなあ。
前にも書きましたが、わたしは秘境冒険ものの『のび太の大魔境』が好きなんですよ。
バウワンコ像はファミコンソフト『ドラえもん』にも出てきたような記憶があるが、わたしはファミコンを持っていなかったので定かではない。持っていたのはゲームウォッチのみ。







で。
そうこうしていたらダ・ヴィンチニュースで「新本格ミステリ30周年」特設ページが公開された。
こちらで作品レビューを書いております。現時点で綾辻行人氏の『十角館の殺人』のレビューがアップされているが、近日中にさらに数本あがる予定。


というわけで。
今夜はやや唐突に新本格とわたしの思い出を書こうと思います。


新本格ムーブメントがスタートしたのが今から30年前の1987年。
わたしはその当時10歳なので、残念ながらリアルタイムで『十角館の殺人』を体験した世代ではない。
とはいえ、わたしが大学に入った90年代後半にもまだまだ人気は健在で、いわばユースカルチャーの一部という感じであった。そのあたりは今日のSF、ラノベに近いものがあるだろう。
国文科で同じゼミだったYくんも本格ミステリにはまっていた一人で、「僕、こんなトリックを考えたんだよ」と小声で話しかけてきたけれど、彼はどうしてるんでしょうか。ヴァン・ダインとヘビメタを愛好する好青年だった。

 
当時、京都に住んでいたわたしがミステリ本をよく買っていたのは、近鉄線新田辺駅の開けたロータリーとは反対側にあった新刊書店、同じく新田辺駅の古本屋「一Q」(いっきゅう)、それと伏見大手筋商店街の一番街にあった書店で、もちろん梶井基次郎が爆破した河原町の丸善や、四条通沿いのジュンク堂にも足を運んだけれど、大学の行き帰りに暇さえあれば立ち寄っていたこのあたりの小型店が思い出深い。キャンパス最寄りの興戸駅わきにも古本屋があったのだが、ここは教科書が主だったような記憶がある。


「一Q」では竹本健治の『ウロボロスの偽書』を、P・K・ディックの『ヴァリス』と一緒に買った。ミステリじゃないけど、森由岐子の『魔怪わらべの唄』も買った。ちなみに「一Q」というのは妙な店名だが、新田辺駅界隈は一休さんゆかりの土地で、銅像なんかも建っていたのである。いま検索してみたら、「一Q」はいまだ現役のようで驚く。なお京都にはほかに「コミックQ」という似たような名前の古書チェーン店があって、こちらにもすごくお世話になった。学生時代は京都中のコミックQとレンタルビデオ店が頭に入っていたものだ。


新田辺駅前の新刊書店(名前失念)では、平台で山口雅也の『生ける屍の死』を見つけて、通学の近鉄電車で読んだ。手もとにある文庫本の奥付を見ると97年11月刊の第4版。このカバーを見ていると、薄暗い蛍光灯で照らされた近鉄線のホームが目に浮かんでくる。


と。
思い出話はつきないのであるが、そんなわけだから新本格30周年企画に携わることができて、ちっと嬉しかったのだ。わたしにとって新本格はいわば青春の文学なのである。Yくん、元気かな。


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